「大丈夫だ。心配するなよ。今にうまく解決する」
「ほんとうかい。でも、相手のけんまくは相当強いぜ。逃げてかえろうか」
「まあ待て、動いてはよくない。ぼくのように落付いているんだ」
「だめだよ。ぼくは落付けやしないよ」
「ネッド」
「なんだ、張」
「お前は忘れたか、牛頭仙人のことを」
「ああ牛頭仙人……それはお前のことだ」
「そうだろう。お前はいつも大仙人のことを信じていた。その大仙人は、さっきからひそかにあの霊現《れいげん》あらたかなる水晶をなでてて、占っていたんだ。ほら、水晶はこのとおりぼくの腰にぶら下っている袋の中にあるんだ。占ってみると、たしかに今の急場は大丈夫しのげるとお告げが出たぞ。安心しろ」
「え、お告げが出たか。そうか。そんなら安心した」
 ネッドは急に元気になっていった。
「それにしても、このむずかしい場面が、どうしてうまく解決するのだろうか」
 ブブンはなおも声高にどなっていた。そのときとつぜん、音楽が始まった。牛乳配達の自動車の運転台にひとりで待っている河合が、電気蓄音器を鳴らし始めたのだ。その曲はトロイメライ。聞いていると眠くなるような夢の曲がチェロによって奏
前へ 次へ
全163ページ中152ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング