をふきだして皆さんを苦しめ、ぼくたちも火星へついたばかりであわてていましたし、そこへ見なれない皆さんがたが押しよせてこられたので、これはたいへんだとちょっと誤解したのです」
「いや、あんなことは大したことではありませんよ。こっちも、じつは誤解をしてさわぎだした者があったのです。とにかく、あっちへ来ていただいて、ゆっくりお話をうけたまわりましょう。また、おもしろい音楽などをたくさん聞かせて下さい」
「はいはい、承知しました」
「が、その前にちょっと伺っておきますが、あなたがたは、いったい何の目的で、私どものところへ来られたのですか」
 ギネは、とつぜん重大な質問を発した。
 山木はぎくんとした。しかしここでうろたえては一大事と、気をしずめて、
「ああ、そのことですか。われわれ地球の者は、じつは何千年も前から、この火星の存在を知っていたのです。しかも火星にはたしかに生物――つまりあなたがたのような方がすんでいるにちがいないと考えまして、早くおちかづきになりたいと思っていたのです。しかし宇宙をとんで来るのはなかなか容易なことではなく、ようやくデニー博士の宇宙艇が完成したので、こんどやって来たようなわけであります」
「ふん。私たちを見たいためだったのですか。それだけですか。外に目的はないのですか」
 ギネのことばは、さっきとはすこし変り、なんだか疑いをふくんでいるように思われた。
「くわしいことは、いずれ後からデニー博士がおはなしすると思います。とにかく火星を訪れたという目的は、地球に一番近い火星人と手をとりあい、火星にないものは地球から送り、またお互いに一層幸福になりたいという考えで、われわれはこっちへ来たのです」
「なるほど。共存共栄ですね。それは結構です。われわれは皆、互いに力になり合わなければなりません。――しかし、あなたがたの来られた目的は、たしかにそれだけでしょうかねえ」
 ギネは、大きな目をぐるぐるっと動かして、しつこく尋ねた。ギネのうしろにいた他の六名の代表者も、身構えらしい恰好になって、山木が何と答えるかと、注意をするどく集めている様子だ。
 山木は、遂にちょっと気をのまれて、すぐには答えられなくなった。
「いや山木さん。じつは私どもは、地球の人たちについて警戒せよとの一つの忠告を受取っているのです。お答えによってはわれわれは重大なる決心をしなければなりません」
 そのことばと共に、七人の火星人の代表者は三少年のまわりをぐるっと取巻いた。
 はじめの調子の良さにくらべて、途中から険悪《けんあく》さを加えてのこの窮迫《きゅうはく》である。少年大使の運命はどうなることか。


   形勢険悪


 一難去ってまた一難!
 せっかく火星人のごきげんを取結んだと思ってほっと一安心したのも束《つか》の間《ま》、急にはげしい怒りにもえあがった火星人。気味のわるいたくさんの顔が、山木、張《チャン》、ネッドの三人に迫ってきた。
 ネッドは顔を蛙のように青くして、こまかくふるえている。山木は、反対にまっ赤になっている。ただ張ひとりは、至極おちついて空気兜の中から、動じない目をギネの方に向けている。
「誰がそんなことをいったのです」と、山木はいよいよまっ赤になって叫び、自分の空気服を叩いた。
「地球から来る者を警戒しろなんて、誰が密告したのですか。ぼくたちは、ごらんのとおり、何の武器も持っていない。またぼくたちの方から、好んで君たちに反抗したことも一度もない……」
「さっき、われわれに毒瓦斯を放出して、ひどい目にあわせたではないか」と、ギネのとなりにいた代表者の一人が、どなりかえした。これはブブンという火星人で、誰よりも背の高い奴だった。
「あれはちがいますよ。ぼくたちは、たった十数人しかいないのですよ。しかもこわれた宇宙艇の中に生残っているだけのことで、これからどうして生命の安全をはかったらいいのかと、途方にくれていたのです。すると君たちが大挙してやって来ました。あのおびただしい人数、あのはげしい勢い。あれで宇宙艇の中へのりこまれたら、わずかに残っている空気もみんな外へ抜けてしまって、ぼくたちは呼吸ができなくなる。おまけに、大切な器械器具材料などをこわされたら、ぼくたちはあらゆる望みを失うことになるのです。だから瓦斯を使ったのです。あの瓦斯は毒瓦斯というほどのものでなく、宇宙艇を保護するために張った防御用の網みたいなものでした。これでお分りでしょう。ぼくたちは、あなたがたの襲撃からぼくたちの身をまもるために、やむなくあのような手段をとったにすぎないのです。あなたがたを、ぼくたちの方から襲撃したわけじゃありません。よく分って下さい」
 山木は、自分の考えをむきだしにぶちまけたのだった。
「いや、どうだかなあ」とブブンはなおも疑いの色をゆ
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