わ》れに帰って、火星の動物を発見したことにつき、第一報を叫んだのである。
「なに、へんな動物だって……」
 デニー博士が、山木のうしろに近よった。山木は、テレビ見張器の映写幕の上を指した。
「あ、これか。いたな。やっぱりそうだったか。これはなかなか油断が出来ないぞ。相手はわれわれよりも相当に高級な身体を持っている……」
 デニー博士は、一大感心の有様で、木の間にうごめく生物を見つめた。
「先生、あれは何《な》んという動物ですか。蛸みたいですが、蛸なら林の中にいるのはおかしいですね」
 山木は、そういいながら博士の方をふりかえった。
「あれは蛸ではない。あれは多分、火星人だろうと思う」
「ええっ、火星人。あれが火星の人間なんですか」
「うん。まずそれに違いないであろうね。こうして見たところ、身体の工合が、わしがこれまでに研究し、想像していたところとよく一致しているからねえ」
「へえーっ。あれが火星人だとすると、火星人て気持が悪いものですね。僕はやっぱり地球の上と同じような人間が住んでいることと思っていましたが……」
「いや、そうはいかない。何しろ気候も違うし、火星の成因や歴史も違うんだし、そのうえに何万年も火星独得の進化と生長とをとげたんだから、地球人類と同じ形をしたものが、この火星の上に住んでいることは考えられなかったのだ」
 博士と山木が話しをしているうちに、他の乗組員も、テレビ見張器の前へぞろぞろと集って来た。誰も皆、火星人が見えるというので、興味をわかして集って来たわけである。
「いやらしい恰好をしているね」
「これじゃちょっとつきあい憎《にく》いね」
「どれが男で、どれが女かな」
「さあ……どれがどうなんだか、全く見当がつかない。とにかく“火星には美人が多い”なんていう話を聞いたことがあったが、あれは全然うそだと分ったわけだ」
「やれ、気の毒に……」
 どっと笑声が起った。
「先生、林の中に、火星人がずいぶんたくさん集結しています。なんだか気味が悪いですね。こっちへ向って来るのじゃないでしょうか」
 山木が、密林の奥にひしめき合って目を尖《とが》らせている火星人の大集団を見つけ出したので、デニー博士へ報告した。
 博士は、それにはもう気がついているようであった。
「……何とか平和的に、火星人と交渉したいものだ。が、油断は出来ない。こっちも十分に武装をして行かねばならぬ」
 博士は、進んで火星人に近づく心であったらしい。そして平和|裡《り》に、事をきめたい考えであることが分った。が、このとき火星人たちは、何思ったものか、急に密林から姿を現わした。そして広い沙漠を、まるで飛ぶようにしてこっちへ向って来るではないか。何百人、いや何千人、いやいやもっと多いのだ。まるで赤蟻の大群が引越しをするような有様で、隊伍をととのえて沙漠を横断し、この宇宙艇へ向けて殺到する勢いを示したのである。
 ああ、危機来る!
 こっちは僅か十人足らずの地球人類だ。相手は何万何十万と数知れぬ火星人の大集団だ。しかもこっちの者にとっては、勝手のちがう異境火星の上だ。デニー博士の一行は非常に不利な立場にある。


   迫る火星人


 事態はすこぶる険悪だった。
 頭のでっかい赤蟻が立ったような恰好の火星人の大群は、見事な隊伍をつくって、刻一刻、沙漠に腹這《はらば》いになった宇宙艇へ近づいて来る。
 わが火星探険団の指揮をとるデニー老博士は、指揮台の上に突立ち、テレビ見張器の六つの映写幕をじっと見つめて、身動きさえしない。
 ああ、このままで行けば、一行九名は、火星人の大群の襲撃をうけて、たちまち踏みにじられてしまいそうである。
 河合は、このときマートン技師のそばについていたが、技師が食料品をすこし食堂へ行って貰ってくるようにといったので、河合はいそいでそちらへ走った。
 食堂へ入ってみると、張とネッドが、有機|硝子《ガラス》の丸窓へ顔を押しつけて、外を一生けんめいに見ていて、河合の入って行ったのにも気がつかないようだった。
「おい、マートン技師からだ。ソーセージとアスパラガスとコーヒーを頼むぜ」
 河合の声に、張とネッドはびっくりして後を振返った。
「へえっ。食べるどころのさわぎじゃないじゃないか」
 と、ネッドが目を丸くした。
 張の方は「よろしい」と答えて、厨房《ちゅうぼう》へ駆けこんだ。
「いや、腹がへっては駄目だ。今のうち食べられるだけ詰めこんでおけと、マートンさんはいうのだ」
「羨《うらやま》しいなあ。僕みたいな食いしん坊でも、今はビスケット一つ食べようとは思わない」
 張が厨房から駆け戻ってきた。ソーセージとアスパラガスの缶詰と、コーヒーの入った魔法壜とを河合に渡した。
「ありがとう、ねえ、張君。これから先、いったいどうなるんだい」
 河
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