胃袋をはちきれそうになるまで膨《ふく》らますことができた。そしてそのあとには、香りの高いコーヒーと濃いミルクとが出た。
「こんなに儲かるんだったら、夏休みがすんでも学校へ帰らないで国中うって廻ろうか」
ネッドは、たいへんいい機嫌で、黒い顔に白いミルクをつぎこみながらいった。
「いや、僕は御免だ」
と、張が反対した。
「あれっ、君は、こんなに儲かったかといって、躍りあがって喜んだくせに……」
「だって、あんな重い牛の頭のかぶりものをかぶって、二時間も三時間も休みなしで呻《うな》ったり喚《わめ》いたりの真似をするのはやり切れん」
「でも、さっきは喜んでやったじゃないか」
ネッドは承知をしないで張をにらむ。
「さっきは、僕たちが飢え死をするかどうかの境目だったから我慢したんだよ。君がいうように僕ひとりで毎日あんな真似をやった日には、きっと病気になって死んでしまうよ」
「弱いことをいうな。張君。とにかくあんなに儲かるんだから、辛抱しておやりよ」
「儲けるのはいいが、僕一人じゃ僕が損だよ。牛頭大仙人を、毎日代りあってやるんなら賛成してもいいがね」
「牛頭大仙人を毎日代りあってやるって。へえ、そんなことが出来るのかい。だって、水晶の珠をにらんで、どうして占いの答えを出すのか、僕たちに出来やしないじゃないか」
山木が、言葉を投げた。
「なあに、あの占いのことなら、そんなに心配することはないよ。誰にでも出来ることだよ。つまり、水晶の珠をじっと見詰《みつ》めていると、急になんだか、喋《しゃべ》りたくなるからね。そのときはべらべら喋ればいいんだよ」
張は、すました顔である。
「だって、それがむずかしいよ。僕らが水晶の珠を見詰めても、君のようにうまく霊感がわいて来やしないよ」
「それは僕だって、いつも霊感がわくわけじゃないよ」
「じゃあ、そのときはどうするんだい。黙っていてはお客さんが怒り出すぜ」
「そのときは、何でもいいから出まかせに喋ればいいんだ。するとお客さんは、それを自分の都合のいいように解釈して、ありがたがって帰って行くんだ。占いの答に怒りだすお客さんなんか一人もいないや」
張は自信にみちた口ぶりである。
「呆れたもんだ。それじゃインチキ占いじゃないか」
と、山木は抗議した。
「違うよ。こっちは口から出まかせをいうが、お客さんの方は自分の口から都合のよいように解釈
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