して、答をにぎって帰るんだぜ。そしてあのとおり缶詰や野菜をうんと持込んでくれるところを見ると、皆ちゃんとあたっているんだぜ。だからよ、こっちのいうことは口から出まかせでもお客さんは何か思いあたるんだ。そしてその言葉によって迷いをはらし喜んで一つの方向へ進んで行くのだ。だから結構なことじゃないか。儲けても悪くないんだ」
張仙人は、彼一流の考えをぶちまけた。これには山木も、すぐには返す言葉がなかった。
「じゃあ張君。さっき君に占ってもらった火星探険協会長のデニー博士ね、あのときの占いは、あれは本物なのかい、それとも口から出まかせなのかい」
そういって聞いたのは、今まで黙って熱いコーヒーを啜《すす》っていた河合だった。
「はははは、あれかい。あの髭むくじゃらの先生のことだろう。あれは、君が出発前に僕がネッドを使っていわせた占いと同じようなもので水晶の珠を使わなくても分るんだ」
張は、くすくすと笑いつづける。
「ふうん“二日後に僕たちが厄介を背負いこむだろう”などというあれだね。あれはひどいよ」
河合は、張をにらんだ。が、あのときのことを思い出して、おかしくなって吹き出した。
「はははは、そう怒るな。とにかくあれは占うまでもなく、水晶さまにお伺いしないでも口からつるつると出て来たことなんだ。そういう場合は、ふしぎによくあたるんだ」
「あたるのは、あたり前だ。自分が二日後には追附くことが分っているんだもの。全くひどいやつだよ」
「おい張君。すると結局デニー博士に与えた占いはどういうことになるんだ。やっぱり君は博士の将来はこうなると知っていて、あのように喋ったのかね」
こんどは山木が聞いた。
「そうでもないね。始め僕は、あの人が火星探険協会長だとは知らなかったんだ。だから何にも知ろうはずがない。ただ、博士が穴から顔を出したとき、あれだけの答が博士の顔に書きつけてあったんだ。僕はそれを読んで順番に喋ったにすぎないんだ」
「うそだい。博士の顔に、そんなことが書いてあるものか。考えても見給え。博士の顔と来たら髭だらけで、文字を書く余地は、普通の人間の三分の一もないじゃないか。字を五つも書けば、もう書くところなんかありやしない」
山木がそういうと、河合とネッドが声をあげて笑った。多分デニー博士の愛すべき髭面を思い出したのであろう。
「もうそんなことは、どうだっていいじゃない
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