トを炙《あぶ》ったりしましたが、遂《つい》に成功しませんでした。何でも、「哲学者の石」というのがあって、それさえ使えば万物が黄金にかわる筈《はず》だと云い出したものがいて、今度は哲学者の石を探し歩く宝探しのようなことが始まりました。これも遂に駄目だったことは、今日《こんにち》金の高いことによって皆さんご存知のとおりです。
しかし科学の上に於ける失敗は、他の失敗と違って、失敗しぱなしで終るものではありません。錬金術のお蔭で、化学というものが大変発達しました。日本には錬金術師が居なかったお蔭で、化学というものは一向に芽をふいて来ませんでした。――而《しか》して、近代になって、長岡半太郎博士は水銀を金に変化する実験に成功して、遂に人類の憧《あこが》れていた一種の錬金術を見出したわけです。その方法は、水銀の原子の中核を、|α粒子《アルファりゅうし》という手榴弾《しゅりゅうだん》で叩き壊すと、その原子核の一部が欠けて、俄然《がぜん》金に成る。つまり物質は、金とか鉛《なまり》とか酸素とか水銀とか云うが、これを形成している物質は共通であり、唯それに含有《がんゆう》せられている数が違うために、いろい
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