う、すごいすごい。むかし浅草に十二階の塔があったがね、これは最新式の十二階だ。しかし、なんだかあぶないね、頭でっかちだからね」
「ところが、あれで安定度も強度もいいんだそうだ。ちゃんと試験がすんで、大丈夫だと折紙つきなんだ」
「よく君は、知っているね」
「昨日あの上までのぼったのさ。十二階に、今いったようなことの証明書や設計図面などが並べてあるんだ。君もひとつ、てっぺんまでのぼってみたまえ」
「のぼっても、いいのかい」
「いいとも。各階とも全部店なんだ。ただ十二階だけは展覧会場に今つかっているがね」
「そうか。じゃあ今からのぼってみよう。早くのぼっておかないと、時代おくれになる」
 十二階の一坪館は、たちまち、東京の大人気ものとなった。したがって各階の店は売れること売れること、みんなほくほくだ。
 この建物の持主である源一と来たら、えびすさまみたいに、一日中笑顔を見せつづけている。
 犬山画伯も大よろこび、註文の絵の表装《ひょうそう》が間にあわないというさわぎだ。
 矢口家のおかみさんは、源一に、とうとうときふせられて、一階に再び煙草店《たばこみせ》を出した。しかし煙草はすぐ売切れにな
前へ 次へ
全61ページ中57ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング