あんなことをいっているよ。ぼくだって金はあまり……この画は非売品《ひばいひん》だよ。売らない画なんだ。見たまえ、ねだんの札《ふだ》がついていないじゃないか」
「いや、おのぞみでございましたら、お売りもいたします。ねだんは、こっちに分っておりますから……」
そういって顔を出した人物があった。かぼちゃにもじゃもじゃ毛をはやしたような目の美しくすんだ男――犬山画伯だった。この画をかいた本人の犬山画伯だ。
「いや、今日はねだんをおしえていただかなくともけっこうです。ごめんなさい」
二人の客は、あとからどかどかとあがって来たあたらしい一団の客といれかわりに、笑いながら、下へおりていった。
この話でわかるとおり、源一は犬山画伯をこの一坪館へよびむかえたのである。画伯夫妻のよろこびは大きかった。ゆめにも思わなかったりっぱな展覧場を、源一が貸してくれたので、天にのぼるよろこびだった。
二階はそれでいいが、問題は三階だ。
この一坪館を建ててくれた恩人のヘーイ少佐は六尺ゆたかな長身だ。その少佐は三階へハンモックをもちこんで、はすかいにつった。ヘーイ少佐はときどき来ては、その上にねた。少佐はたいへ
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