いにんき》
三階建の一坪館は、あたりの建物からひときわ高く頭を出して、うれしそうに天を仰いでいる。
「やあ、すごい店ができたね。ははあ、花やだな」
「あ、二階に絵画展覧会場があるって、ポスターが出ているぜ」
「こんなせまい家で、展覧会ができるのかなあ。どうしてそんなことができるのか、ちょっと上って見てこようや」
銀座のお客さんは、こうした風がわりを好む。きゅうくつな階段を、がけのぼりのようにしてあがって二階へ。
「ほう。やったね」
「ふーン、壁という壁にのこりなく絵をはりつけたね。こんな能率のいい展覧会場は、はじめて見たよ」
そのとおりだった。四方の壁という壁が、すっかり絹地《きぬじ》へかいた日本画でうずまっている。草花の画がある、かわいい子供の人物画がある、花のさいた田舎《いなか》の風景画がある。
「ああ、これはたのしいね。画なんて、こんなきれいな、いいもんかな」
「戦争に夢中になっていて、こういう世界をすっかり忘れていたよ」
「こうして画を見ていると、敗戦のくるしさを忘れるね」
「おいおい、見るだけじゃ悪いよ。僕とちがって君は金を持っているんだろう。一枚買っていけよ」
「
前へ
次へ
全61ページ中47ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング