に、モザイクで、赤バラの花一輪がはめられると、この建物は盛装《せいそう》をこらした花嫁さんのようになった。
「すばらしい塔をこしらえたもんだ。あの塔は何だね」
「さあ、何だかね。今どき、ごうせいなことをやったもんだ。ちょっとそばへいってみようよ」
 みんな、この塔の下にあつまって来た。
 そのとき彼らは見たのである。その一階の店前《みせさき》に、いろとりどりの美しい草花が鉢《はち》にもられていっぱいに並んでいるのを。
「あ、花屋だ」
「やあ、きれいだなあ。花ってものは、こんなに美しかったかしらん」
「うれしいね。焼夷弾《しょういだん》におわれて、こんな美しい草花のあることなんかすっかり忘れていたよ。一鉢買っていこう。うちの女房や子供に見せてよろこばしてやるんだ」
 塔見物にそばへよって来た人々は、こんどは草花の美しさにとりこになって、争《あらそ》うようにして源一の店から花の鉢を買っていく。
 源一は、あせだくで、うれしい悲鳴をあげていた。
 この新しい銀座名物の建物は「一坪館《ひとつぼかん》」と名づけられた。
 たった一坪の土地が、こんなに能率よく利用せられたことは、今までにはほとんど
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