ないことだろう。
店の品物があまり売れすぎるので、午後一時頃には品物が店になくなりかけた。困ってしまった源一は、誰かを雇《やと》って花の仕入《しいれ》をしようかと考えた。しかしそのとき思い出したのは、いつも源一に元気をつけてくれた犬山画伯《いぬやまがはく》のことだった。
(そうだ、犬山さんに頼んで、しばらくこの店を手つだってもらおう)
そう思った彼は、その夜、犬山画伯のもとをたずねた。
犬山画伯は、家を留守にしていた。田舎へ出かけて、いつ帰ってくるか分らないという話だった。彼はがっかりして一坪館へひきあげた。
彼にもう一つの心配があった。明日は土曜日でヘーイ少佐が来る。そして、いよいよベッドを三階に入れるわけだが、あんなせまいところへうまく入るだろうか、そして少佐が土曜日の夜をあそこでうまくねられるだろうかという心配だった。
ベッドを三階へ
ヘーイ少佐は、土曜日の午後、ジープを自分で運転して一坪館へのりつけた。
「ほう。すばらしい繁昌《はんじょう》だ」
少佐は、よろこびのあまり、ぴゅーッと口笛を吹いたほどだった。全く一坪館の前は人垣《ひとがき》をつくっていて、
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