ませながら、その図面にみとれているのを笑いながらみていて、そういった。
「持ちたいですがねえ……」持ちたいですが、現在の身の上では、火星探険と同じように、自分の力では出来ない相談だと源一はあきらめ顔になる。
「じゃあ、このとおり、ぼくはここへこの店を建てることにしよう」
「えっ、なんですって……」
 源一は、思わず大きなこえを出して、ヘーイ少佐の顔をみつめた。
 少佐は愉快そうに美しい歯なみをみせて笑っていた。
「これはぼくが設計したビルだ。これをぼくがたてる。ぼくは、三階に住む。あとの二階と一階と地階は、君が使って店にしてもいいし、ベッドをおいてもいい。そういう条件を君が承知するなら、ぼくはこのビルをたてる。どうだい、ゲンドン」
 そういわれて、源一はすぐにことばも出ず、つづけさまに、大きなため息が二つ出た。それから彼は、自分の頬《ほ》っぺたをぎゅうとつねってみた。
「あ、痛い。ゆめじゃないね」と源一はひとりごと。
 少佐はパイプを出して火をつけながら、笑っている。
「承知するかい、ゲンドン」
「ありがとう。ぜひお願いします」と、源一はやっとものがいえた。全く思いがけないことだ。しか
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