ませながら、その図面にみとれているのを笑いながらみていて、そういった。
「持ちたいですがねえ……」持ちたいですが、現在の身の上では、火星探険と同じように、自分の力では出来ない相談だと源一はあきらめ顔になる。
「じゃあ、このとおり、ぼくはここへこの店を建てることにしよう」
「えっ、なんですって……」
源一は、思わず大きなこえを出して、ヘーイ少佐の顔をみつめた。
少佐は愉快そうに美しい歯なみをみせて笑っていた。
「これはぼくが設計したビルだ。これをぼくがたてる。ぼくは、三階に住む。あとの二階と一階と地階は、君が使って店にしてもいいし、ベッドをおいてもいい。そういう条件を君が承知するなら、ぼくはこのビルをたてる。どうだい、ゲンドン」
そういわれて、源一はすぐにことばも出ず、つづけさまに、大きなため息が二つ出た。それから彼は、自分の頬《ほ》っぺたをぎゅうとつねってみた。
「あ、痛い。ゆめじゃないね」と源一はひとりごと。
少佐はパイプを出して火をつけながら、笑っている。
「承知するかい、ゲンドン」
「ありがとう。ぜひお願いします」と、源一はやっとものがいえた。全く思いがけないことだ。しか
前へ
次へ
全61ページ中41ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング