んな金を自分はもっていないのだといった。すると少佐は、
「それならいいことがある。このつぎの土曜日にまた来るよ。待っていたまえ」と、なぐさめ顔でかえって行った。


   すばらしい話


 源一は、「それならいいことがある」と、ヘーイ少佐がなぞのようなことばをのこしてかえったので、それは何であろうと、たのしんで待っていた。
 次の土曜日、ちゃんと少佐は、源一の店にすがたをあらわした。首をちぢめて、少佐は中へ入って来た。そしてかかえていた巻いた紙を源一の前にひろげた。
「ゲンドン。こういう店は、君の気にいらないだろうか」
 少佐は、白い長い指で、図面のうえにぐるっと円をかいた。
「えっ、なんですって……」
 源一はすっかり面くらった。少佐のひろげた図面には塔のような家がかいてあった。それは三階建《さんがいだて》になっていた。いや、地階があるから四階だ。
 一階は表へひらいた店になっていて、たくさんの花の鉢をならべ、また上からは蘭科《らんか》の植物などをぶらさげてある絵までかいてあるのだった。
「こういう店を、君はもちたくないか」
 少佐は、源一が目を皿のようにひらき、はあはあと胸をはず
前へ 次へ
全61ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング