んな金を自分はもっていないのだといった。すると少佐は、
「それならいいことがある。このつぎの土曜日にまた来るよ。待っていたまえ」と、なぐさめ顔でかえって行った。
すばらしい話
源一は、「それならいいことがある」と、ヘーイ少佐がなぞのようなことばをのこしてかえったので、それは何であろうと、たのしんで待っていた。
次の土曜日、ちゃんと少佐は、源一の店にすがたをあらわした。首をちぢめて、少佐は中へ入って来た。そしてかかえていた巻いた紙を源一の前にひろげた。
「ゲンドン。こういう店は、君の気にいらないだろうか」
少佐は、白い長い指で、図面のうえにぐるっと円をかいた。
「えっ、なんですって……」
源一はすっかり面くらった。少佐のひろげた図面には塔のような家がかいてあった。それは三階建《さんがいだて》になっていた。いや、地階があるから四階だ。
一階は表へひらいた店になっていて、たくさんの花の鉢をならべ、また上からは蘭科《らんか》の植物などをぶらさげてある絵までかいてあるのだった。
「こういう店を、君はもちたくないか」
少佐は、源一が目を皿のようにひらき、はあはあと胸をはず
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