がどこにあるか分った。しかし今はもうさっぱりだめだ。家が建って、見とおしがきかない。
 銀座の通りからでも、源一の店は見えない。通りにもだいたいバラック式の家が立ちならんだからである。例の交番のある辻のところまでくると、はじめて源一の一坪店が見え出す、その奥の方に……。
 源一の店は、まだ家になっていない。天幕《てんまく》ばりの店である。しかし、店内は、にぎやかだ。
 もう、れんげ草やタンポポは、ならんでいない。
 菊、水仙、りんどう、コスモス、それから梅もどきに、かるかやなどが、太い竹筒《たけづつ》にいけてある。すっかり高級な花屋さんになってしまった。
 その主人公の源ちゃんは、日やけのした元気な顔をにこにこさせて、お客さまのご用をうけたまわっている。いつの間におぼえたのか、いくつかの花を器用にあしらって、あとは花活《はないけ》になげこめばいいだけの形の花束《はなたば》にまとめあげるのだった。
「どうも花のおろし値が高いものですからね。お高くおねがいして、すみませんです」
 などと、源一は顔ににあわぬ口上もいう。
「ずいぶん高いのね」
 と、お客さんはため息をつきながら、それでも花に
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