きいきした表情で、ぶつかりそうな人通りをわけて歩いていく。
 銀座の通りの、しき石の上には、露店《ろてん》がずらりとならんで、京橋と新橋との間の九丁の長い区間をうずめている。
 道のまん中にたれさがっていた電線は、きれいにかたずけられて、今は電車が通っている。
 通行人の身なりも、だいぶんかわって来て、もんぺすがたがすくなくなり、ゲートルはほとんど見えない。
 戦争はおわって、平和の日が来たのだ。
 しかし敗戦のみじめさは、あらゆるもの、あらゆるところをおおっていて、日本人は一息つくごとに、いたみをおぼえなければならなかった。
 だが、戦争はおわり、平和の日が来たんだ。もう空襲警報《くうしゅうけいほう》もなりひびかないのだ。焼夷弾《しょういだん》や、爆弾の間をぬって逃げまわることもなくなったのだ。今は苦しいが、日一日と楽しさがかえってくるにちがいない。
 その楽しさは、どこまでかえって来たか。どんな形をして目の前にあらわれているのであろうか。人々は、それをさがすために、みんな、銀座の通りへあつまってくるのだった。ものすごい人通りが、こうしてできる。
 前には、新橋の上に立つと、源一の店
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