にっこり笑って買っていく。
花よ。花よ。ずいぶん永い間、あなたにあわなかったね。
戦敗街道《せんぱいかいどう》
天幕《てんまく》ばりながら源一の一坪店は、はんじょうしている。
しかし源一を虻《あぶ》小僧とあざけり笑った三人組の青年たちの姿は、そのへんのどこにも見えない。彼らは芋《いも》を売っている間は、まだよかったのであるが、その後芋が統制品《とうせいひん》となって売るのをとめられた。それでも彼らは売った。それを売らないと彼らは収入がなくて食べられないからであった。そのあげく、彼らの商品はすっかりおさえられ、そしてそのまま没収《ぼっしゅう》されたものもあり、とんでもない安値《やすね》で強制買上げになったものもあった。
三人が留置場《りゅうちじょう》から出たときには、仕事がなくて、食べるに困った。その結果、とうとう悪の道へはいりこんで強盗《ごうとう》をはたらいた。
彼らが、もし正しい心を持ち、神を信じていたら、そんな悪の道におちないですんだことであろう。しかし彼らは不運にも、そういう方向へみちびいてくれる先生をもたなかったし、いい友だちがなかったし、工場が空襲で焼
前へ
次へ
全61ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング