た。
「そんならなにも、しょげることはないじゃないか。花を売ろうという考え方はいいんだから、もっとしんぼうして売れる日までがんばるんだね。しかし、もっと人目《ひとめ》につくようにしなくちゃ、誰も知らないで通ってしまう。よろしい。僕が君のために画看板《えかんばん》をかいてやろう」
そういって犬山猫助は画板をひらくと、その場ですらすらと、美しい花の画看板をかいてくれた。源一は、その画をうけとって、うれしそうに大にこにこ、礼をいうのも忘れていた。
命名《めいめい》
源一は、画家犬山猫助がかいてくれた美しい花の画看板《えかんばん》を、棒《ぼう》の先にゆわいつけて、一坪の店に、高々とはりだした。
これはたいへんききめがあった。
「おや、花だ。花を売っているよ」
と、通りからこっちへ通行人がとびこんで来る。
「れんげ草か、これはいいね。一株五十銭。ふうん。安くはないが……しかしほかの物にくらべると、やっぱりこんな値段だろうね。よし、十株もらうよ。うちの焼跡へこれをうえて、うちの庭をれんげ畑にしよう」
そういって、よろこんで買っていくお客さんがふしぎにつづいた。
「犬山さん。
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