いた。その涙を、ひざの上に組んだ服の袖《そで》で、ごしごしとこすってから顔をあげた。
源一の前には、見るからに人のよさそうな男がつったっていた。その男は、年が若いのか、そうでないのか、よく分らなかったが、後で分ったところによると、まだ二十歳の青年だった。年がよく分らないのは、その男の顔が、南瓜《かぼちゃ》に似ていて、そのうえに雀《すずめ》の巣をひっかきまわしたようなもじゃもじゃの髪の毛を夕風にふかせ、まるで畑から案山子《かかし》がとびだしてきたような滑稽《こっけい》な顔かたちをしていたせいであろう。彼は、肩から画板《がばん》と絵具箱とをつりさげ、そして右手には画架《がか》をたたんだものをひっさげていた。それを見れば、この男が画家であることが一目で分るはずであるが、源一はすぐにはそれに気がつかなかった。
「えらくしょげているね。ほ、目のまわりがまっ黒だ。そうか、泣いていたね。はははは、子供のくせにいくじがないぞ。いったいどうしたんだ」
それから話が始まって、犬山猫助《いぬやまねこすけ》というその画家は、源一の身の上からこの店をだして品物が一つも売れないまでのことを、すっかり聞いてくれ
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