犬山画伯《いぬやまがはく》


 三人組が芋を売りきって引きあげていったあと、源一は一坪の店をまもって、れんげ草とたんぽぽを一株《ひとかぶ》でも売りたいと思い、がんばった。
 だが、ついに一株も売れなくて、やがてさびしく日はかたむきだした。
 一日中、焼けあとにほこりをあび、くさいにおいをかぎ、おなかをすかせ、三人組からは、悪口《わるくち》をあびせかけられ、向うの通りを行く人々からは相手にされないで、源一もすっかり元気をなくし、くたびれはてて焼けあとの焼け煙突《えんとつ》のうえにあかあかと落ちてくる夕日が目にうつると、もうたまらなく、目からぽつりぽつりと大きな涙の粒が、焼け灰のうえに落ちるのだった。
「死んでしまおうか……」
 源一は、唇をかみしめた。自分もなさけない。東京もなさけない。日本もなさけない。未来にたのしみも希望もみつからない。
 そのときだった。源一の前にゲートルをまいた二本の足が停《とま》った。誰だろう。
「ほほう、これはおそれいった。れんげに、たんぽぽか」
 がらがらとした大きな声が、源一の頭の上にひびいた。源一は、下を向いて泣いていたので、顔は涙によごれて
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