ぜん売ってみせるです」
「ごうじょうだよ、お前は……」
「バカだよ、きさまは……」
「損だよ。今に泣き出すだろうよ」
 三人の若者は、てんでんにいいたい言葉を源一にはきかけると、そこを立ち去った。源一が見ていると、三人は自転車につんで来た荷物を開いて、本通りに店をひろげた。
「さあ、おいしい芋《いも》だ。ほし芋だ」
「ふかし芋もある。いらっしゃい、いらっしゃい」
「腹がへってはしょうがない。さあお買いなさい、あまいあまいほし芋だ」
 三人の若者が、かわるがわるに声をあげて、ほし芋とふかし芋を売りはじめると、通行人たちはたちまち寄って来て、芋店の前は人だかりがつづき、品物は羽根《はね》が生えたように売れていった。そして二時間ばかりすると、すっかり売り切れてしまった。三人の若者は、えびすさまが三人そろったようににこにこ顔だ。そして源一の方へ近づいて、たずねた。
「おい虻小僧。れんげ草の原っぱはまだ売切れにならないかい。うふッ。まだ一つも売れてねえじゃねえか。どうするんだ、そんなことで……」
「ぼく、だんぜん花を売ります。誰がなんといっても売るです」
 源一は、ふりしぼるような声で叫んだ。

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