った。
 なぜ、売れないんだろう。相手は誰でも、れんげ草をみて、にこにこ笑う。そういうところを見るとみんな花がきらいではないのだ。きらいでないくせに買っていかないのはどうしたわけだろう。
「ははあ、みんなお金がないのかな」
 そうでもあるまい。たった五十銭なんだから。
「それとも場所がよくないのかな。この店は、銀座の通りから、ちょっとひっこんでいるから、ここまで入りこむのがおっくうなんだろうか」
 たぶん、そうであろうかと思った。しかし、これはどうすることも出来ない。ここが店の場所なんだから仕方《しかた》がない。
「お客さんの来るまで、とうぶん、ここでがんばってみよう」源一はそう決心した。そして売れなくても毎日店を出した。
 すると、ある日のことめずらしく彼の店の前に近づいた三人の若者があった。三人は、源一の店に並んでいる品物をのぞきこむと、一度にぷっとふきだして大笑いした。


   三人組


「なあんだ。花を売っていると思えば、れんげ草じゃないか。人を笑わせやがらあ」
「誰がそんなものを買うものか」
「そうだ、そうだ。今みんな腹をへらしているんだ。食いものなら買うが、花なんぞ、誰
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