りがとう」
「買出し行くんかね、あっちは高いことをいって、なかなか売ってくれないよ」
「そうですか、困りますね」
電車の姿のない電車道の上を源一は車をすっとばして行った。やっぱり焼けているけれど、ぽつんぽつんと所々に焼跡があるだけで大部分の町が残っていた。源一はそれに気がつくと、なんだか、救われたように急に胸がひろがった。
「ほッ、多摩川だ」
いつの間にか多摩川の見えるところまで来た。二子の橋を渡る。美しい流れだ。川岸は目のさめるような緑の木や草にすがすがしく色どられている。
「いいなあ」
まるで夢の国へ来たようだ。こんな美しい世界が、まだこの日本にのこっているとは気がつかなかった。橋を渡ったところで左に折れ、堤《つつみ》の方を川にそって下って行く。
「ああ咲いている、咲いている! 花だ。れんげ草があんなにたくさん……」
源一はエンジンをとめると、車からとびおりた。そして目の下の堤いっぱいに咲きひろがっている紅《あか》いれんげ草の原へかけこんだ。
「うわあ、すごいなあ。すごいなあ」
源一は気が変になったように、れんげの原の上をとびまわったり、ころがったりした。そのうちに彼は、
前へ
次へ
全61ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング