の中で花がいっぱい咲いた春の野原をとびまわって遊んでいたのだ。れんげ草や、たんぽぽやクローバーやいろんなものが咲いていたよ。そうだ、野原へ行けば花は咲いているにちがいない」
 ゆめの中に、源一は花のあるところをみつけたのだった。
 彼は元気づいて立ち上った。そしてオート三輪車にひらりとまたがると、エンジンを音高くかけて出発した。
 もうもうと、焼け灰を煙のようにかきまわしながら、源一ののった車はどんどん郊外《こうがい》の方へ走っていった。
 赤坂《あかさか》から青山の通りをぬけ――そこらはみんなむざんな焼跡《やけあと》だった――それから渋谷《しぶや》へ出た。渋谷も焼けつくしていたがおまわりさんが辻《つじ》に立っていた。そこで源一は、車を下りて、おまわりさんにたずねた。
「おまわりさん、花がいっぱい咲いている野原へ行きたいんですが、どこへ行けばいいでしょう」
「ええッ、花だって。この腹ぺこ時代に、花なんかみても腹のたしになるまいぜ。それとも、主食《しゅしょく》の代用に花でも食べるつもりかね」
 おまわりさんはおどろいていたが、それでも親切に、花の咲いていそうな野原は、これから二キロほど先
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