てしまったのだ。
 交番も焼けてしまって、わずかに残ったのは立番所の箱小屋の外がわだけで中にはお巡《まわ》りさんの姿もない。焼けた電話機の鈴とマグネットが下にころがっている。
 そのとき珍らしく、そのあたりにエンジンの音が聞えだしたと思ったら、それがだんだん近づいてこの交番の焼跡《やけあと》の前に停った。それはオート三輪車というもので、前にオートバイがあり、うしろが荷物をのせる箱車になっているあれだ。
 前にまたがって運転をしているのは一六、七歳の少年で風よけ眼鏡をつけている。頬《ほっ》ぺたはまっ黒。少年の右腕は、三角巾《さんかくきん》でぐるぐるしばり、上に血がにじんでいる。
「矢口家《やぐちや》のおかみさん。交番もこの通り焼けていますよ。お宅はこの横丁《よこちょう》だが、入ってみますか」
 少年は元気な声で、うしろをふりかえった。箱車の上に、蒲団《ふとん》を何枚も重ね、その上に防空頭巾をかぶって、箱にしがみついている老婦人があった。
「ああ、入ってみておくれな、源《げん》ちゃん。せっかくここまで来たんだもの、せめて焼灰《やけはい》でもみておかないと、わたしゃ御先祖《ごせんぞ》さまに申
前へ 次へ
全61ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング