》のいい顔をぬっと店の中へ入れた。
「やあ、おかえりなさい。待ってましたよ」
源一は少佐にとびついて手をにぎってふった。
「ほう、源どんへおみやげだ。この本、気にいるだろう」
そういってヘーイ少佐が源一の手にわたしたのはアメリカ版のりっぱな大形の本だった。
「英語の本ですね。ぼく、はずかしいけれど、きっぱり英語は読めないんです」
「心配いらない。本をひらいてごらん」
源一は少佐にいわれたとおりにした。どのページにも建築物の図と設計図とがついていた。すばらしい美本の建築設計集であった。
「なるほど。画なら分りますよ」
「それ、みたまえ。はははは」
四百ページもあるその本には、各種類の近代建築物がのっていた。源一は少佐がそばにいるのもわすれて、ねっしんに各ページを見ていった。
「これはおもしろい。こんなことができるのかなあ。ねえヘーイさん」
源一が少佐の方へさしだした図面は、塔の形をした建物で、下の方が細く上へいくにしたがってひろがっている。
「できるね。つまり鉄のビームを組んで、横にはりだせばいい。鉄橋や無線局の鉄塔で、そうなっているものが少くない。ほら、ここに出ている」
「よし、これ式の一坪館をつくろうや」
源一は、一つのヒントをつかんだ。
摩天閣《まてんかく》
源一はヘーイ少佐に相談をして、十二階のはりだし式になった一坪館をつくることになった。
これは十階までが一坪であるが、十一階と十二階は、横にはりだしている。そのはりだしをささえるために八、九階あたりからななめ上へ鋼鉄のビーム(大きな腕金《うでがね》)をつきだして、下からささえているのだった。なかなか名案であった。
こうした構造によって十一階、十二階は、他の階の三倍ぐらいの広さになった。これならかなり品物をならべることができる。ヘーイ少佐のためにゆっくりしたベッドを用意することもできると、源一はよろこんだ。
少佐は源一のために、またいろいろと力を貸してくれた。
矢口家のおかみさんの方は、もちろん大のり気になってセメントやお金をつぎこんでくれた。
こうして、新しい一坪館は、十二階の摩天閣《まてんかく》となって、銀座を行く人々にお目みえした。
「いよう、すごいものを建てたね。いったい、何階あるんだ」
「地上が十二階だとさ。地階が五階あるから、これもあわせると十七階だあね」
「ほ
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