なおった。君があのとき、すばやくかけつけて、すぐ病院につれていってくれたから、わるいばいきんも入らなかったんだ。だからこんなに早くよくなった。ありがとう、ありがとう」
「それはよかったですね。とにかく神さまがぼくをヘーイさんにひきあわせてくだすったのだと思って、かんしゃしています」
「ほんとだ。ふしぎなえんだね、ゲンドン」
「ヘーイさんの好きなお酒でも一ぱいあげたいけれど、今は何もないんでね」
「いらない、いらない、酒はぼくの方にうんとある。持って来てあげてもいい」
「ぼくは、酒をのみません」
「ああ、そうか」少佐は、それはざんねんだという顔をしたが、それから彼は改《あらた》まった調子で「この店は、よく売れるかね」と聞いた。
源一は、正直にちかごろすっかり売行のわるくなったことをのべた。値段を下げても買い手が来ないことをいった。
少佐はそれを聞いていて、うなずいた。
「花を売るためには、店をもっと美しくしなくてはならない。この店のテントはよごれていけない。なぜ近所のように家をたてないのか」
少佐はそういって、たずねた。そこで源一は、この一坪に家をたてるには一万円かかるが、とてもそんな金を自分はもっていないのだといった。すると少佐は、
「それならいいことがある。このつぎの土曜日にまた来るよ。待っていたまえ」と、なぐさめ顔でかえって行った。
すばらしい話
源一は、「それならいいことがある」と、ヘーイ少佐がなぞのようなことばをのこしてかえったので、それは何であろうと、たのしんで待っていた。
次の土曜日、ちゃんと少佐は、源一の店にすがたをあらわした。首をちぢめて、少佐は中へ入って来た。そしてかかえていた巻いた紙を源一の前にひろげた。
「ゲンドン。こういう店は、君の気にいらないだろうか」
少佐は、白い長い指で、図面のうえにぐるっと円をかいた。
「えっ、なんですって……」
源一はすっかり面くらった。少佐のひろげた図面には塔のような家がかいてあった。それは三階建《さんがいだて》になっていた。いや、地階があるから四階だ。
一階は表へひらいた店になっていて、たくさんの花の鉢をならべ、また上からは蘭科《らんか》の植物などをぶらさげてある絵までかいてあるのだった。
「こういう店を、君はもちたくないか」
少佐は、源一が目を皿のようにひらき、はあはあと胸をはず
前へ
次へ
全31ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング