けて後は職を失いみじめな生活にうちひしがれ、すっかり心をどぶにつけていたようなものだった。――そして今彼ら三人は、刑務所の中に暮している。だから三人組は、この銀座へ顔を見せないのであった。
そんなことは、源一は知らなかった。にくい奴《やつ》らであるが、こうながく彼らが姿を見せないと、どうしたのかしらと、心配になった。
犬山画伯も、このところしばらく姿を見せない。しかし画伯は、刑務所で暮しているわけではない。画伯は、もともとからだの丈夫な方ではなかったので、人通りしげき銀座通りに立ち、もうもうとうずまく砂ほこりを肺《はい》の中に吸って、暮したのがよくなかったらしく、夕方には熱が出、はげしいせきが出るようになった。そこで銀座で仕事をすることは、もう三ケ月も前にやめたのである。
しかしもう大分よくなっている。仕事も、家の中でしている。進駐軍《しんちゅうぐん》の将兵たちがお土産に買ってかえる絹地の日本画を家でかいているのであった。これは、往来《おうらい》にたって似顔スケッチをやるよりは、ずっといい仕事であった。だから画伯は、ヤミで卵を買ったり肉を買ったりして食べることが出来、そのおかげで健康がもどって来たのだった。そしてときどき銀座へあらわれて、源一の一坪店を見によってくれる。
店の看板も、もう五六度もかきなおしてくれた。源一はその代金を払おうとしたが、画伯《がはく》はいつも、
「とんでもない。源ちゃんからそんなものをもらわなくても、僕は大丈夫食っていける」
といって、けっして受取らなかった。
「でも、僕だって、このごろそうとう儲《もう》かるんですよ。とって下さい」
「今に僕が展覧会をひらいたら、そのときには源ちゃんに買ってもらおうや」
犬山画伯は、これは冗談《じょうだん》だがとことわりながら、それでも目をかがやかしたものだったが……。その画伯は、どうしたんだろう?
残された者
そのうち銀座は、えらいいきおいで復興しはじめた。まずその第一|着手《ちゃくしゅ》として、銀座八丁の表通を、一か所もあき地のないように店をたてならべることになった。
その工事はにぎやかにはじめられた。木材を使った安っぽい建物ながら、おそろしいほどの金がかかった。しかし焼跡が一つ一つ消えていって、木の香も高い店舗《てんぽ》がたつとさすがににぎやかさを加えて、だれもみんなうれ
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