からのことだった。
帆村は十分の仕度をして、木村氏にいわれたとおり、三十分のちには日比谷公園の所定の場所に立っていた。
それから五分おくれて、形は大きいセダンではあるが、型は至極古めかしい自動車がとおりかかった。なるほど一目でそれと知れる官庁自動車だった。ラジエーターの上には官庁のマークの入った小旗がたてられていた。
「ああこれだな」
と思った折しも、車が帆村の前にぴたりと停り、中にいた四十がらみの鼻下に髭のある紳士が帆村の方へ顔をちかづけて、
「木村です。さあどうぞ」
と、柔味のある声音で呼びかけた。
帆村はそのまま車内の人となった。
そして彼は、木村氏の案内によって築地《つきじ》の某料亭の門をくぐったのであった。時刻は丁度午後三時十七分であった。
暗号の鍵
「やあ、どうもたいへん失礼なところへ御案内いたしまして――。でもこうでもしないと、私どもの官庁の重大事件を貴下《あなた》にお願いしたことがどこへもすぐ知れ亙ってしまいますので」
と、情報部事務官木村清次郎氏は、初対面の挨拶のあとで、すぐと用談にとりかかった。
「――これは、政府の一大事に関する緊急な調
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