り書でこうかいてあった。
「先生が大怪我をされたからすぐ来てくれという知らせで、私は出かけます。八月二十六日、午後十一時三十七分」
 これで一切は明白となった。諜者連の方では、大辻が事務所に残っていては短波通信機がつかえないから、帆村が大怪我をしたなどといって、大辻を誘いだし、片づけられてしまったに相違ない。大辻と来たら、おとなしく監禁されているような男ではないから、このような最期を招いたのであろう。
「こんなわけで、僕はすっかりふりまわされて、恥をかくやら、大失態を演ずるやら、今思い出しても腋《わき》の下から冷汗が出てくるよ」
 前代未聞の暗号数字事件を述べ終えて、帆村は大きな吐息を一つついた。



底本:「海野十三全集 第5巻 浮かぶ飛行島」三一書房
   1989(平成元)年4月15日第1版第1刷発行
底本の親本:「俘囚 其の他<推理小説叢書7>」雄鷄社
   1947(昭和22)年6月5日発行
初出:「現代」大日本雄辯會講談社
   1938(昭和13)年3月号
※底本の本文で、全角文字による横組みとなっている数字と数式は、ラテン文字の処理ルールに準じて半角で入力しました。た
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