、なんとなく不安であった。彼はそれが常住の土地を離れた者の望郷病だと解し、自分の心の弱さを軽蔑した。
 食事がすんで時計を見ると、列車にのるまでまだ小一時間もたっぷり余裕があったので、彼は窓ぎわに涼《りょう》をとるような恰好《かっこう》をしながら、その実、例の鏡の裏から読みとった新しい暗号の発展を脳裡《のうり》に描いていた。
 彼のノートには、第五図のように書いてあった。
[#ここから罫囲み]
[第五図]
※[#丸4、1−13−4]

       8□
   _______
74□)□□□□□□
    □□□2
    ―――――
     □9□□
     □74□

※[#丸5、1−13−5]ハ大阪市新世界「アシベ」劇場内ニ掲出ノ「ロビンフッド」ノポスターノ右下隅。星印アリ
[#ここで罫囲み終わり]
 これで見ると答の二桁目が出ているが、枠で囲ってあるから、何の数字やらわからない。四段目の四数字のうち□74□と二字だけ分ったのは、有力なる手懸りだ。
 帆村はこれを整頓して、いままで分った数字を入れたり、新しい枠のなかに記号をいれたりした。それは別掲のとおりだった。(第六図)
[#ここから罫囲み]
[第六図]
※[#丸4、1−13−4]

       ハ
       ↓
       8X
   _______
74A)6CDEFG
↑↑  59J2←ニ
イロ  ↑↑
    HI
    ―――――
     K9LM
      ↑
      ホ
     N74P
      ↑↑
      ヘト

[#ここで罫囲み終わり]
 帆村は、しきりと名答を考えつづけた。
 ヘトが 74 と出ているから、ここへ覘《ねら》いをつけなければならない。答の二桁目はXであるが、除数の 74A にXを掛けたものが、N74P となるのである。
 ところでヘすなわち7がここに出るためには、除数すなわち 74A の 74 に対してXが決まってくるであろうと思われる。
 そこでXを零から9までにとって調べてみると、Xの値は次の二つのうちどっちかである。X=5? 9?だ。もっと説明すれば、Xが5なら、除数のはじめの二桁 74 との積は 370 となり、ヘに7が出る。またXが9なら、積は 666 となって6が出るが、これは A×X の項を加えると、当然 666 が 67?と
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