なものだが、油断《ゆだん》のならない話だね。で、その七八人の荒くれ男というのは一体、どこの国の人たちかね」
「さあ、そんなこと、分らないわ――。あら、お友達が来るわ――その人達は、イギリスの海賊じゃないかしらと思うのよ。もう、何のお話も中止よ」
 バーバラがここまでいったとき、彼女の部隊は、賑《にぎ》やかな声をあげて追いついた。
 白木は、このとき私にそっと合図をした。そこで私は、彼のうしろについて、そこに見える城塞《じょうさい》の小門《こもん》をくぐった。白木は、私の方をふりむいた。そしてステッキを叩いていうには、
「これが買って来た軽機銃《けいきじゅう》だよ。どうやらこいつの役に立ちそうな時が来そうだ」といった。


   謎《なぞ》の音叉《おんさ》


 メントール侯の居間《いま》に入りこんだ。
 番人はいたが、白木は石垣《いしがき》の方を指さして、あとからあのとおり娘たちがのぼってくるから、冷い飲物と、ランチをひろげる場所を用意してもらいたいというと、その番人は両手をひろげて、ほうと大きな声をたてると、にやにやと笑って、厨《くりや》の方へ駈けこんでいった。
 私たちは、その隙《すき》に、曲った大きな階段を音のしないように登っていったのであった。
 メントール侯の居間は、幸《さいわ》いにも破壊されずにあった。それは、聞きしにまさる豪華なものであって、中世紀この方の、武器や、酒のみ道具や、狩猟《しゅりょう》用具などが、いたるところの壁を占領していた。また大きな卓子の上には、古めかしい書籍が、堆高《うずたか》く積んであり、それと並んで皮でつくった太鼓のようなものが置いてあった。只一つ、新しいものがあるのが目についた。それは蓄音機《ちくおんき》であった。
「おい、早いところ宝さがしだ。君には、何か手懸りが見つかったかね」白木が、私にそういった。
「冗談じゃない。今部屋をぐるっと見廻したばかりだ」
「炯眼《けいがん》な探偵は、さっと見廻しただけで、宝でも何でも、欲しいものを探しあてるのだけれど……」
「じゃあ、君がそれをやればいい」
「いや、今度ばかりは、おれは駄目さ。始めからそう思っていたし、それにこの部屋を一目見て断念したよ。おれには科学は苦手さ。君に万事《ばんじ》を頼む」と、いつになく白木は、あっさり匙《さじ》をなげて、窓のところへいった。
「頼まれても困るが…
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