朝、袋探偵をたいへん喜ばせたものである。彼はその書類だけを鞄から抜きだして、彼が最も信頼するところの書斎の壁にはめつけの金庫の中にしまった。鞄の方は、硝子《ガラス》戸棚の中に入れて、鍵をかけてしまった。
 彼は、烏啼に対しては、全然知らない顔でいることにした。しかし定めし向こうでは気に病《や》んでいることと思われた。


   念入りなスリ


 袋探偵は、烏啼に関係ある例の鞄のことをしばらく忘れていた。
 そのわけは、彼が過日八つ手のしげみの間の中で酔耳《すいじ》(というものがあるとして)を通して聞いた奇怪な事実の研究に没頭していたからだ。
 その結果、あの貴重な水鉛鉱の話が本物であることを確めた。またそれを発見した真の権利者である金山源介が死んでいることも確めた。彼は悪い酒を飲んだあとで下宿で死んだことになっていて、確かに殺害されたことにはなっていなかった。
 笹山鬼二郎という人物も確かに実在していた。彼は弓削組に属して請負い仕事をやっている三十男であった。しかし彼はこのところ弓削組へ顔を出さないことが分った。
 笹山鬼二郎の宿所へ行って調べてみると、彼はこの数日以来そこにも全く姿
前へ 次へ
全25ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング