サマジニクギジアマトンツマイセリンコゴラミウイヲダイハモラチチノトレマカテギヲチマメチイモシウトトウミケシテモアエゲイコリマヨトスカイルウヨレオインンウハノナオナスヲトレツコタデレスハ」


   解読できるか


 明らかに、これは暗号だ。
 暗号である以上、解けるはずだ。
「よろしい。解いてやるぞ」
 袋探偵は自分の机の上に、例の片仮名ばかりの一文をのせて、はげしい決意を示した。
「どこから手をつけたらいいか……」
 二度読みかえし、三度くりかえし、四度五度と声をだして読んだ。
 読みかえしているうちに、何となく気のついたことがある。
「始めの方は何だか意味のある言葉が続いているが、途中からちんぷんかんぷんに変ってしまう」
 それからもう一つ、感想を持った。
「前半は、いやにぴんぴん響くのに、後半になるとそれがなくなっている」
 それ位にして、あとは正攻法に移る。
 まず字数を算《かぞ》えてみる。
「ほう、二百字ある。ちょうど二百字だ」
 きちんと二百字だということは、偶然であるとは思われない。何か作為が秘められているのだ。
 次に、この二百字を分類して見る。どの字が最も多いか、多い順に字を並べてみるがいいだろう。
 その結果、次のことが分った。
 ン(二十九個)が第一位だ。次はイ(十四個)だ。第三位はカ(十一個)だ。
 それからは、ノ(八個)、マ(九個)、ト(七個)あとはずっと数が少くなっている。
「これはどうもおかしい。たった二百字の暗号文にしろ、日本文字の使用頻度の統計とだいぶん違っている。ヲ、ニ、ワ、ルなど相当多くなければならぬ筈の文字がこれには意外に少い。――それに反して、ンだとかカだとかいう文字が多すぎる。ことにンが二百字中に二十九字もあるのは、あまりに変態である」
 そこで袋探偵は、溜息を、一つついて鉛筆を取上げ、文字の第一番から一つ一つ数え始める。
「ここまでちょうど半分だ。これより前が百字。あとが百字。――こうして境界線を入れてみると、いよいよこれは何かあるな」
 クルマカンから始まってカンゼシナランまでと、次のイマケエイツから始まってタデレスハまでとに分けてみたのだ。
「ふうん。前半と後半とは、まるで他人のようだ。――そこでこれを仮りに別物としてみよう。そして分析してみる」
 まず前半からだ。出て来る文字の頻度をかぞえてみる。
 ン(二十五個)、次はカ(九個)、次はイ(五個)、ノ(五個)、シとナが共に(四個)だ……
「これはいよいよ無茶苦茶だ。日本文字頻度統計をすっかり破っている。――そこで、これは意味のある言葉を分解して配列がえをやったのではないということが分る。してみれば、これは一体何だ。どんな役柄なのか、前半の百字は……」
「とにかくンの二十五個は、あまりにも異常だ。次のカは九個だ。第一位と第二位とのひらきが、あまりに大きい。……ンの二十五個か。二十五だ。……待てよ、二十五といえば百の四分の一だ。前半の前字の数は百だった。その四分の一がンという文字なんだ。そこだ。そこに鍵があるんだ」
 なんの鍵であろうか。
 ちょっと取付けない。――それならば、すこし方向をかえてみる。
 百と二十五。とにかく百だ。百と二十五と四だともいえる。
 この三つの数字の関係がとければいいのだが……
「そうだ。四と百と――これかもしれない。百個の文字を十字ずつ切って並べると十行で百字となる。すると四角が出来る。これはおもしろいではないか」

[#ここから3字下げ]
クルマカンニセンコク
アリシンネンノエンカ
イイマナオエンキザン
ネンナリタンネンベル
クカイセンノケツカハ
シゼンチホウミンノシ
ンノバンサンカイイン
ニカンセズナオミンカ
ンニソノサンカンヲコ
ワントカンゼシナラン
[#ここで字下げ終わり]

 この四角な文字の配列を眺めていると、この中のンという文字は、たしかに或る符牒《ふちょう》を示すものであると察せられる。言葉を構成しているものではないのだ。
 しからばその符牒とはどんな符牒か。
 句読点か。
「とにかく、そのンの字のある場所を、他の文字と区別して、しるしをつけてみよう」
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