烏啼天駆シリーズ・4 暗号の役割
海野十三
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)烏啼天駆《うていてんく》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)探偵|袋猫々《ふくろびょうびょう》
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暗闇の中の声
奇賊|烏啼天駆《うていてんく》と探偵|袋猫々《ふくろびょうびょう》の睨《にら》み合いも久しいものである。
この勝負は一向かたづかないままに、秋を送り、この冬を迎えた。
ところがここに袋探偵は、一つの手柄をたてた。いや幸運を掴んだといった方がいいかも知れない。というのは、今から三日前の夜、虎ノ門公園地内でのだんまり一幕。
かれ猫々は、その夜すっかり酔っぱらってあそこを通りかかったが、どうにも身体が思うようにならず、そこでしばらく時間をやり過ごすことにして、ふらふらと足を踏みこんだのがあの公園。亭のあるところまで行きつかないうちに力が抜けてしまい、どんと尻餅をついてそのままと相成ったのが、入口から入ったすぐのところの八《や》つ手《で》の葉かげ。
そこですっかり身体が安定してしまって、ぐっすり睡込んだ。――と思ったら、たちまち夢を破られた。何者とも知れず、十歩位でとんで行けそうなすぐ傍で左右に分れて睨みあったる二組の人影。それがあたりを憚《はばか》りつつ凄文句《すごもんく》を叩きつけ合う。時々声高になって言葉に火花が散るとき、かれ袋探偵の酔払った耳底に、その文句の一節が切れ切れにとびこむ……
水鉛鉱のすばらしい鉱山が見つかった。
その仮称《かしょう》お多福山《たふくやま》の場所は秘密だ。
おぬしだけが知っているんだ。
とんでもない。
金山源介は殺された――お多福山の宝を見つけて、見本の原鉱を掘りだした男………
殺したのはおぬしだ。
うそだ。でたらめだ。
烏啼の身内と分ったからにゃ、話はお断りだ。
そんなことはいわない方がいいだろうぜ。笹山鬼二郎、おぬしは悪人だ、卑怯者だ。
儲《もうけ》けは山分けだ。
いやだ。
おぬしの大将に何もかもぶちあけて、大将にかけ合う。
まあ、待て。
おぬしは源介から横どりした秘密地図を持っているんだ。それを今、半分に破いてこっちへ寄越せ。
ちょッ、悪い者に見こまれたよ。じゃあ今出して、それを半分にするから……ちょっと待っていて下さいよ。
その
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