えが停らなかった。
「あれでいいんだ」と帆村は呑気《のんき》なことを云った。「あれで筋書どおりに搬《はこ》んだわけだ」
「筋書って、君はあのような場面を予期していたのかネ」と私は呆《あき》れて問いかえした。
「そうなんだが、あんなに巧《うま》くゆくとは思っていなかった。ここで一つ君に頭を下げて置かねばならぬことがあるが……」と彼はちょっと語《ことば》を切って「君がいつか金《きん》青年の殺人犯人のことで、『犯人は気が変だ。それが馬鹿力を出して金を殺し、その直後に正気《しょうき》に立ちかえって逃走した』というような意味のことを云ったが、あれに対して僕は男らしく頭を下げるよ」
「というと……」
「あの丘田医師の大変な力のことを云っているのだ。気が変になったればこそ、あのような力が出る」
「すると金青年に重い砲丸を擲《な》げつけて重傷を負わせたのは、丘田医師だったのかい」
「もうすこしすれば、誰が犯人か、自然に解《わか》る筈《はず》だよ」
 真犯人のことを知ったのは、それから三日のちのことだった。ゴールデン・バットのチェリー――それが真犯人だった。
 これは一部の人に大変|奇異《きい》な思いを
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