ムチムチ肥えた露《あら》わな二の腕が、それ自身一つの生物《せいぶつ》のように蠢動《しゅんどう》していた。
「いいから、行ってこいよ」帆村は云った。
「じゃ、ちょっと――」
私は心臓をはずませて、席を立った。彼女の悩《なや》ましい体臭《たいしゅう》の影にぴったりとついて行くと、チェリーは楽手《がくしゅ》のいないピアノの側へつれていった。
「用て、なんだい」私は訊《き》いた。
「解ってるでしょう――」そういうチェリーの顔には、何となく険悪《けんあく》な気がみなぎっているのを発見した。
「あんた、早く返さないと悪いわよ」
彼女は私の思いがけないことを云った。
「早く返せ。な、なにをだい?」
「白っぱくれるなんて、男らしくないわよ」
「なッなんだって?」
「こうなりゃハッキリ云ったげるわよ。――あんた先《せん》に丘田さんのところで、盗んでいったものがあるでしょう」
「なにを云うんだ」私は駭《おどろ》きと怒《いか》りとで思わず大声になった。
「ほら、やましいから、赤くなったじゃないの。悪いことは云わないから、これから直《す》ぐ帰って、あの薬をあたしンところへ持っていらっしゃい。いいこと。あた
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