ぬ私は呑気《のんき》な口調で帆村に呼びかけていた。「君の話では、金という男は、ここの女たちに、劇薬を浸《し》みこませた煙草を与えてモルヒネ中毒者にしていたということだが、金が死んでしまった今日《こんにち》も、彼女たちは別に中毒者らしい顔もしないで平気でいるのは、ちょっと訳が解らないネ」
「なるほど。それでどうだというのだ」
「どうだといって、彼女たちは金からモルヒネ剤の供給を断たれたわけだから、大なり小なり、中毒症状をあらわして狂暴になったり、痙攣《けいれん》が起ったりする筈だと思うんだ。ところが案外みんな平気なのはどういうわけだろうか」
「いや、君の探偵眼も近頃大いに発達してきたのに敬服する」と帆村は真面目な顔付になっていった。「しかしその回答は、まだ僕の口からは出来ないのだ。まあ、もう少し待っていたまえ」
 そこへ珍らしく私達の番のチェリーが、洋酒の盃をもって来た。彼女は黙々《もくもく》として、ウイスキーを私達の前に並べたが、
「あの、ちょっと、顔を貸して下さらない」と私に言った。
「えッ」
「ちょっと話があるのよオ」
 私は顔が赭《あか》くなった。私の眼の前には、チェリーの真白な
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