ロインみたいな粗悪なやつは私のところでは使っていませんよ」
「ではこの儘《まま》にして置きましょう。もう外に無いでしょうネ」
「ありませんとも」そういった丘田医師の顔は、心持ち蒼《あお》かった。
「では一つ、投薬簿《とうやくぼ》の方を見せて下さいませんか」
「投薬簿ですか。そうです、あれは向うの室にあるから取ってきましょう」
そういって丘田医師は立った、帆村は私に跟《つ》いてゆくようにと、目で合図をした。
丘田医師は不機嫌に診察室へ飛びこんだ。そしてチェッと舌打《したうち》をしたが、そのとき後からついていった私が扉《ドア》に当ってガタリと音を立てたものだから、彼は吃驚《びっくり》して私の方を振りかえった。その面は、明かに不安の色が濃く浮んでいた。
投薬簿は直ぐ見付かった。調薬室へ引返してみると、帆村は前とはすこしも違わぬ位置で、また別の劇薬の目方を測っていた。
「さアこれが投薬簿です。――」
帆村は帳面をとりあげると、念入りに一|頁《ページ》一頁と見ていった。丘田医師は次第に苛々《いらいら》している様子だった。そのうちに帆村は、投薬簿をパタリと閉じた。
「どうも有難うございまし
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