たりを指した。ビールの満《まん》をひいて顔をテラテラ光らせていたモダンボーイの帆村とは異《ことな》り、もうすっかりシェファードのように敏感《びんかん》な帆村探偵になりきっていた。
「どこから行く、道は?」私も咄嗟《とっさ》にもう突っこんでゆく決心をした。
「裏口へ廻って呉れッ。明《あ》いてたら、しっかりせにゃ駄目だぞ」
「君は?」
「表から飛びこむッ。急いで――」
 帆村が腰を一とひねりして、尻の隠袋《かくし》から拳銃を取出しながら、早や身体を玄関の扉《ドア》にぶっつけてゆくのを見た。こっちも負けずに、狭い家と家との間に飛び込んだ。飛びこんだはいいが、溝板《どぶいた》がガタガタと鳴るのに面喰《めんく》らった。
 露地内《ろじない》の一つ角を曲ると、アパートの裏口に出た。頑丈な鉄棒つきの硝子扉《ガラスドア》が嵌《はま》っていた。そのハンドルに手をかけようとしたとき、なんだか前方の溝板の上をサッと飛び越えていった者があるように感じた。誰か壁の蔭に隠れていたような気がした。私は裏口の方は放って置いて、その影を追い駈けた。
 露地をつきぬけると、また細い路地がずッと長く三方に続いていた。私は素
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