にいつまでも震《ふる》えながら、歎《なげ》き悲しんでいた。
 そのうちに、ぼくはとつぜんむずと摘《つま》みあげられた。ぼくは愕《おどろ》いた。はっとして目を瞠《みは》ると、知らない若い男の指に摘みあげられていた。
 その若い男は、もう一人の男と、しきりにあまりよくないところの話に夢中になっていた。
「よせよ、大きなこえを出すない。木田さんに聞かれたら、怒られるよ」
「大丈夫だい。木田さんは呼ばれて主任のところへ行っちまった。おい、どうする。行くか、行かないか」
「おれはいやだよ」
「ばか。いくじなし」
 そういいながら、その若い男は、ぼくを穴の中へ挿《さ》し込《こ》んだ。私はこの意外な出来事に、夢かとばかり愕《おどろ》き、そして胸を躍らせた。木田さんが向うへいった留守に、何にもしらないこの若い男が、ぼくをよく調べもしないで、装置の穴の中に挿し込んでしまったのである。やがてぼくの頭に、ドライバーが当てられた、ぐっと圧《お》されて、きりきりと右へ廻された。ドライバーは、何遍《なんべん》かつるりと滑《すべ》った。そのたびにやり直しだ。
 だがその若い男は、話に夢中になっていたので、文句も云わず何遍でもやり直して、とうとうぼくを穴の中に圧し込んでしまったのである。
 ぼくは暫《しばら》く呆然《ぼうぜん》となっていた。
 喜んでいいのか、それとも悲しんでいいのか。
 自分のあさましい身の上が分ると、ぼくはもう初めに考えていたように、大きなりっぱな機械に抱《いだ》かれることをすっかり断念しなければならなかった。今の今まで、断念していたのである。
 ところが思いがけなく、ぼくは憧《あこが》れの国際放送機の中に取付けられてしまったのである。こんなうれしいことが又とあろうか。
 ぼくを、こうした思いがけないすばらしい幸運へなげこんでくれたこの若い男に対し、どんなに感謝しても感謝し足りないと思った。
 だが、ぼくの心の隅に、何だかおり[#「おり」に傍点]のようなものが溜《たま》っていることについて、ぼくはいささか気にしないわけにいかなかった。というのは、ぼくは公然堂々《こうぜんどうどう》と大手をふってこの大役にとびこんだわけではなかったのである。
 早くいえば、その若い男が、くだらない話に夢中になっているお蔭で、こんなことになったのである。それは決して公明正大であるとはいえない。身は一
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