手で、既《すで》にアルミの小さい枠の装置のフレームの穴とぴったり合わせていた。右手の指に摘みあげられたぼくが、その穴に今や挿《さ》しこまれようとした瞬間、
「おやァ」と、木田さんの異様な声がした。
「何だい、このもくねじは……。これは出来損《できそこな》いじゃないか。なぜこんなものが入っていたんだろう。誰かぼやぼやしてやがる」そういって木田さんは、ぼくを機械台の上に立てた。ぼくはどきんとした。
「何を怒っているんだい、木田さん」
 横合《よこあい》から、疳高《かんだか》い声が聞えた。
「いや、優級品のもくねじだから安心していたんだ。ところがこんな出来損いのが交っていやがる。見掛けは綺麗なんだけれど、螺旋《らせん》の切込み方が滅茶苦茶《めちゃくちゃ》だ。どうしてこんなものが出来たのかなあ」
「どれどれ」
 と、疳高《かんだか》い声の男が、ぼくを指先につまみあげて、眼のそばへ持っていった。熱い息が、下からぼくを吹きあげる。
「なるほど、これはふしぎなもくねじだね。たしかに出来損いだ。それにしても、よくまあこんなものが出来たもんだ。これはあれだよ。旋盤《せんばん》の中心が何かの拍子に狂ったのだ。だからこっちとこっちとが、よけいに深く削《けず》られている。これじゃねじ山は合っていても細いから、挿《さ》し込《こ》んでもやがてぬけてしまうよ。おお、それに頭がこんなに缺《か》けているじゃないか。ドライバーをあてがって、力をいれてねじ込もうとすれば、ドライバーがねじの頭から滑ってしまう。ひどいものを交《ま》ぜて寄越《よこ》したなあ。とにかくこれはだめだ」
 そういって、彼はぼくを元のとおり、機械台の上に、頭を下にして立てた。
 ぼくの不幸なる身の上は、この刹那《せつな》にはっきりしたのである。
 螺旋がよけいに深く切り込んである。それに頭の一部が缺けている。ああぼくは何という不幸な身体に生まれついたことであろうか。
 目の前が急に暗くなった。ぼくは台の上で身体をふるわせ、歎き悲しんだ。折角《せっかく》りっぱな国際放送機の部分品となって、大東亜戦争|完遂《かんすい》に蔭ながら一役を勤めることが出来ると思ったのに。
 若《も》しぼくに、羽根があったら、この台の上からひらりと飛び出して、あの穴へとびこむのだが……。


   幸運《こううん》


 すっかり希望を失ったぼくは、機械台の上
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