か。おい、これでいいよ。ありがとう」
 ぼくたちは、ここでもまた褒《ほ》められた。褒めてくれたのは、仕上げの熟練工《じゅくれんこう》の木田《きだ》さんという産業戦士だった。
「それごらんなさい。私はこのごろふわふわなんかしていませんよ。木田さん、この次そんなことをいうと、私はあんたに銃剣術《じゅうけんじゅつ》の試合を申込みますよ」若い男は得意だ。
「あははは。銃剣術でお前が張切っている話は聞いたぞ。いつでも相手になってやるが、油を売るのはそのへんにして、早く向うへいけ」
「ちぇっ。木田さんはあんまり勝手だよ。油なんか一滴も売ってはいませんよ、だ」
 若い男は、口笛を吹きながら、向うへいってしまった。
 それから木田さんは、また暫《しばら》くぼくたちを更にほれぼれと撫《な》で廻していたが、やがてぼくたちを両手ですくいあげると、別の大きな機械台の上へ連れていった。その傍《そば》には、ぴかぴか光った大きな無電装置のパネルがたくさん並んでいた。これは国際放送用の機械であるらしい。
 木田さんは、そこにいた仲間に声をかけた。
「おい、もくねじが来たぞ。早いところ、残りの穴へ埋《う》めこんでくれ」
 木田さん自身も、ぼくたちを手に掴《つか》んでポケットに入れた。それから右手にドライバーを握り、ポケットからぼくたちを一つ摘《つま》みあげては、パネルの後側にあるターミナルの並んだアルミの小さい枠《わく》を、装置のフレームに取付けるため、両方の穴と穴とを合わせ、その中にぼくたちを植え込み、それからドライバーでくるっくるっとねじこんだ。
 ぼくたちの仲間は、どんどんポケットから出ていった。ポケットの中が空《から》になると、また木田さんはぼくたちを一掴《ひとつか》みポケットの中に入れた。その中にはぼくも交《まじ》っていた。
 ぼくは、番の来るのを今か今かと待っていた。
 そのうちに太い温い指が、ぼくの胴中《どうなか》をぎゅっと摘《つま》んだ。いよいよ番が来たのだ。ぼくは胸を躍らせた。国際放送機の部分品として、これからぼくは永久の配置につくのだ。その機械は、やがて送信所に据《す》えつけられ、全世界へ向って電波を出し始めるであろう。大東亜戦争《だいとうあせんそう》を闘《たたか》っている雄々《おお》しい日本の叫びが、世界中に撒《ま》き散《ち》らされるのだ。ああ国際宣伝戦の大花形! 木田さんは左
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