今度の分は間に合うからねえ。なにしろこのごろは納期がやかましいから、もくねじ一函が足りなくても大さわぎなんだ」
若い男は、うれしそうに目を輝《かがや》かして、ボール函の蓋《ふた》をしめた。ぼくたちの部屋は再び暗くなった。
「それみろ。やっぱりありがたいだろうが。お前からよくもくねじさんにお礼をいっときな。売れ残りだなどというんじゃねえぞ」函の外には、倉庫係のおじさんが機嫌《きげん》をとり直して、ほがらかな声を出す。
「じゃ貰っていくよ。伝票《でんぴょう》はさっきそこに置いたよ」
「あいよ。ここにある」
それからぼくたちは、若い男の手に鷲掴《わしづか》みにされ、そしてどこともなく連れていかれた。
今から思えば、まだこのときのぼくは希望に燃えて気持は至極《しごく》明るかった。仲間同士、これからどんなところへいって、どんな機械の部分品となって働くのであろうかなどと、われわれの洋々たる前途について、さかんに談《だん》じ合《あ》ったものである。
宿命《しゅくめい》
函《はこ》の外からは、そのときどきに、いろいろな音響が入ってくる。また人間たちの話声がきこえる。それをじっと聞き分けるのは、たいへん興味のあることだった。
ぼくたちの函が、どすんと台の上か何かに載せられたのを感じた。そこはたいへん沢山の大きな機械が廻っている部屋であった。
「はい、もくねじを貰ってきましたよ。これが最後の一函です」さっき聞き覚えた例の若い男の声だ。
「おい待ってくれ。ちょっと中身を調べるから」
別の太い声がした。
「大丈夫ですよ。倉庫で受取ったときちゃんと調べてきましたから」
「待て待て。お前はこのごろふわふわしていて、よく間違いをやらかすから、あてにならんよ。それに間違っていれば、すぐ取替《とりか》えて来てもらわないと、折角《せっかく》ここまで急いだ仕事が、また後《おく》れるよ。急がば廻れ。念には念を入れということがある」
「ちぇっ。十分念を入れてきたのになあ」
「まあそう怒るな。どれ、そこへ明《あ》けてみよう」
太い声の男が、ぼくたちを明るみへ出してくれた。ぼくたちは、ざらざらっと、冷い冷い鋼板《こうばん》の上にぶちまけられた。しばらく暗闇《くらやみ》にいたので、眩《まぶ》しくてたまらない。大きな手でぼくたちをなで廻す。
「ほう。これは優級品だ。まだこの手のがあったの
前へ
次へ
全9ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング