途中でいきあって、両方から手をだしてつかまりあったものだから、こんどは二人のからだがからみついて、空中をふーわ、ふーわ。
 そのとき、紺色《こんいろ》の幕の奥で、
「うわッ、助けてくれ」
 といった者がある。つづいてがたんがたんと、机や腰掛のぶつかる音。
 と、戸があいて、そこからふわーッとでてきたのは、顔中|髭《ひげ》だらけのコック長であった。
「た、助けてくれ。コーヒーが、わしをおっかけてくる。あッ、あちちち。これはたまらん。助けてくれイ」
 コック長は、一生けんめいに逃げる。彼のからだが、池の中へとびこむ蛙《かえる》のように長くのび、空間をすうーッとななめにとぶ。するとそのあとから、長い、にょろにょろした茶褐色《ちゃかっしょく》の棒が、ぽっぽと湯気をたてながら、コック長をおっかけて、彼のくびすじのところへつきあたる。
「あッ、あちちち。助けてくれ。コーヒーをとりおさえてくれ。やけど攻《せ》めだ。わしは死んじまう」
 その茶褐色の棒は熱いコーヒーだった。料理場の火の上にかかっていたコーヒー沸《わか》しの口から、にょろにょろと外へでてきた熱い熱いコーヒーだった。重力がなくなったので、
前へ 次へ
全126ページ中54ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング