が、顔をかがやかして、きいた。
「こんどは、なかなか深刻《しんこく》なところへ案内いたします」
「深刻なところって、どんなところですの」
 ヒトミも座席から、からだをのりだす。
「蠅《はえ》の社会へ案内いたします」
「あら、蠅の社会が深刻なんですか」
「蠅の考えていること、人類にとってはなかなか深刻あります。これから私案内するところは、蠅が作り、そして蠅が演《えん》ずるテレビジョン劇であります。それをごらんにいれます」
「まあ、すてき。蠅でも劇をするんですの。しかもテレビジョン劇なんて、あたらしいものを」
「人類は、人類のこととなるとわりあいによく知っていますが、その他のこと、たとえば馬のこと、犬のこと、兎のこと、毛虫のこと、蠅のことなどについては、あまりに知りません。それ、よくありません。蠅が何を考えているか、それらのこと、よく知っておく、はなはだよろしいです」
 ポーデル博士は、いつになく深刻な顔つきになって、そういった。
「その蠅のテレビ劇を見るには、どこへいけばいいんですか」
「ヒマラヤ山の上へのぼります。そして山の上から下界《げかい》に住む蠅の世界がだすその電波を受信しましょ
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