たちますよ。はーい、一分間たちました。さっきと同じ時代になったのです。見たでしょう、星は二十億年の昔に、一つにかたまっていたということを。それが爆発して四方八方へとんでいることも分りましたね。銀河系もその一つですが、わりあいゆっくりとんでいます。銀河系のような星雲《せいうん》が、すくなくとも一億はかぞえられます」
「宇宙って、なんてひろいのでしょう」
「大宇宙は、今でもどんどん外へひろがっていきます。どこまでひろがるのか果《はて》は分りません」
「ひろがっていって、大宇宙は最後にはどうなるのですか」
「それはまだとけない謎です。あははは、わたくしもそこまでは知りません」
ポーデル博士は、いつになく「知りません」と、そこでかぶとをぬいだ。
海底国めざして
すっかり空が晴れわたった。
五月の鯉《こい》のぼりが、屋根のうえをいきおいよくおよいでいる。
すがすがしい気分で、急にのびてきた雑草《ざっそう》を分けて原っぱのまん中をいく二人は、みなさんよくごぞんじの東助とヒトミだった。
「あ、あそこにポーデル先生がでていらっしゃるわ」
ヒトミが早くも気がついた。
「おや、先生はいつもとちがって、外にでて、ぼくたちを待っていて下さる」
東助とヒトミが足を早めて先生のところへ近づいてみると、先生は愛用の樽ロケットの外側へ一生けんめいペンキのようなものをぬっている。
「先生。こんにちは」
「やあやあ、君たち、きましたね。やれやれ、私の仕事、やっと間に合いました」
「ペンキを樽ロケットに塗ってどうなさるんですか」
「これはね、今日は君たちを海の底へつれていこうと思うのです。私の樽ロケット、今日は海の中へもぐります。海水などにおかされないように、安全のため塗料《とりょう》をぬりました。さあ、これでよろしい。さきへおはいりなさい」
東助が先に、それからヒトミ、それから先生の順で、小さい樽ロケットの中に三人はすいこまれた。三人とも、べつになんとも思わないけれど、知らない人たちが見たら、さぞふしぎがることであろう。なにしろ足で、けとばせるぐらいの小さい樽の中に、大きな三人のからだがすいこまれてしまうのだから。
ロケットの中は、いつものように広く、そして明るく、東助やヒトミの大好きな果実《かじつ》やキャンデーが箱にはいって卓上におかれてある。
「さあ、おあがりなさい」
「先生、ありがとう。で、今日は海底へもぐって、なにを見るのですか」
「君は、海底ふかく下りていくと、なにがあると思いますか」
「そうですね、こんぶの林がゆらいでいて、その間を魚の大群がおよいでいます」
「もっと下へさがると、どんなになっていますか。こんどはヒトミさん、話して下さい」
「だんだんあたりが暗くなります。そしてふつうの魚はいなくなって深海魚《しんかいぎょ》ばかりになります。いろんな深海魚は気味のわるい形をしたお魚です。中には自分のからだから青い光を発している魚もいます」
「なかなか、よく知っていますね。もっと下へさがると、なにがありますか」
「まださがるんですか。ええと、するともう魚はいなくなります。やわらかい泥《どろ》が、ふかくよどんでいるだけです」
「もっと下へおりると、どうなりますか」
「もうそこでいきどまりです。おしまいです」
「いや、もっとさがるのです。どうなりますか」
「困ったなあ。泥の中を分けて中へはいっていくと岩がありますね。岩の下をどんどんおりていくと、地球の下にもえているあついどろどろにとけた岩にぶつかります。そうすると死んでしまいます」
「そうです、そうです。そこまで考えないとおもしろくない。つまり海の底には、岩が大きくひろがっている――というか、それとも海の底には陸地があるといった方がいいかもしれませんね。そしてその中にあるのは、岩ばかりですか」
「そうでしょうね」
「生物はいませんか」
「さあ、どうかしら。たぶん、いないと思います。だってそこには空気がないのですもの」
「なかなかいいことをいいますね」
「それに、下へいくほど暑いから、生物なんか生きていけません。上から海水がしみこんでくることもあるだろうし、どっちみち、だめですね」
「よく分りました。あなたがたの知識は正しいです。正しいが、しかしこれからそこへ私が案内したら、きっとおどろきますよ。さあ出発します。そこの窓へ顔をあてておいでなさい。さっきあなたがいったとおりの海中風景が見られますよ」
そういうと博士は、樽ロケットを進発《しんぱつ》させ、その操縦をはじめた。
博士のことばどおり、二人の目の前には美しい海の中の風景がくりひろげられ、まるで竜宮《りゅうぐう》に向かう浦島太郎のような気持になった。
海底国の入口
三人をのせて樽ロケットは海中をいく。
海
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