十八年前のことです。おう、海王星が見えてきました。その右側に冥王星も見えます。冥王星は太陽系の九つの大きな遊星《ゆうせい》のうち、一番外側にある星です。どうですか、東助君、ヒトミさん。こうして太陽系を見わたした感じは……」
「すごいという外《ほか》、いいようがありませんねえ」
「背中が寒くなりますわ。広い大きな空間ですわねえ」
「おどろくことは、まだ早いです。こんどは太陽系をはなれて、もっと外へでてみましょう」


   宇宙のはてへ


「あの、ダイヤモンドをちりばめたようなきらきらした長い帯が、上から下へ、長くつづいていますね。あれは何か知っていますね」
「知っています。天の川です、銀河ともいいます」
「そうです。銀河です。銀河はどんなものか知っていますか」
「銀河は星の集っているところでしょう」
「それにちがいありませんが、どのくらい星が集っているか、分りますか」
「さあ。ずいぶんたくさんのきらきらした星が輝いていますね。ええと、一万――いや十万ぐらいかな」
「もっとたくさんよ。百万はあるでしょう。ねえ、ポーデル先生」
「もっともっとたくさんです。約二千億もあります」
「二千億ですって。まあ、おどろいた」
「あの一つ一つの星が、太陽と同じように光っているのです。つまり二千億の太陽があのとおり輝いているのです」
「ふーン。すると銀河というのは、ずいぶん大きいものですね」
「直径が十万光年あるのです。銀河の端《はし》からはしへいくのに、光とおなじ早さでとんでも、十万年かかるというわけです」
「すごいなあ。ぼくは銀河の大きさを考えると、頭がへんになります。そしてあの光っている二千億の太陽には、それぞれいくつかの遊星がまわっているんでしょう。考えてみると地球なんて小さなものですね」
 東助はため息をついた。
「ポーデル先生。銀河でないところに光っている星は、どういう星ですの」
「銀河からはなれている星でも、じつは銀河系に属する星があります。そのほかに、銀河系でない星や星団《せいだん》もあります。それがよく見えるように、銀河をはなれて遠くへ、この樽ロケットをとばしましょう。すると銀河の形がよく見えます」
 ますますものすごいスピードで、樽ロケットは、暗黒の大宇宙をとんでいった。
「東助君。ヒトミさん。地球の位置をよくおぼえていて下さい。太陽を見忘れないようにして下さい。太陽系も、じつは銀河系の一つの星ですが、銀河のどのへんにある星だか、やがて分るでしょう」
 ポーデル博士の話しているうちに、樽ロケットは何百万光年の空間をすっとんだ。銀河の帯がどんどん縮まって、お皿のような形をした平ったいものになった。
「ほら、分ったでしょう。銀河は星が円板《えんばん》のように集っているものです。それから、みなさんにとってなつかしい太陽系は、銀河のずっと端に近いところにあるのが見えるでしょう」
 なるほど銀河を皿《さら》にたとえると、皿のふちに近いところにある。
「あらあら。銀河はまわっていますのね」
 ヒトミが、おどろいていった。
「そうです。皿の形をした銀河は、皿をまわすように、ぐるぐるまわっているのです。中心のところは、星がたくさんあつまって、すこしふくれてみえるでしょう」
「ああ、そうね」
「ぼくらの太陽も、銀河といっしょに、まわっているようですね」
「そうです。だから太陽も、銀河系の星にちがいないのです。太陽がまわって元のところへ戻るには二億二千万年かかるのです」
「長い年月ですね。人生五十年にくらべて、なんという長い年月でしょう」
「この大宇宙ができてから、何年たったか、知っていますか」
「いいえ」
「無限に長い時間がたっているのでしょう」
「無限大ではないのです。約二十億年たっていることが分っています」
「二十億年ですか。大宇宙にも年齢があるというのは始めて知りましたが、おもしろいですね」
「ポーデル先生。大宇宙が二十億年の年齢をとっているものなら、大宇宙が生れたばかりの赤ちゃんのときと、今とは、どうちがっていますの」
「さあ、そのことですよ。では、時間器械をかけて、二十億年前の大昔へ戻してみましょう。それから今の時代へ、時間器械を走らせてみましょう。それを私たちの目では、たった一分間で見えるように器械をあわせておきますよ。いいですか。よく見ていて下さい」
 博士が時間器械を動かしてスイッチをいれると、窓の外は暗黒になった。いや、暗黒ではない。まん中に一つ輝いているものがあった。それが急にふくれだした。花火が爆発したように、光る粒が四方八方へひろがりはじめた。どんどんひろがっていく。しかしよく見ていると、速度のはやいものもあれば、おそいものもある。はやいものは、光のうすい小さいものであって、大きいかたまりはおそくとんでいる。
「一分間
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