ぐるとまわっていた。それが、三つの輪になってまわっていた。なんだか、太陽のまわりを地球や火星などがまわっているのに似ている。
「これはなんという原子ですか」
「酸素の原子です」
「おやおや、これが酸素ですか」
「ウラニウムの原子は見えませんか」
「ウラニウムは、ここにはないから、見えません。ウラニウムは、外をまわっている電子が九十二個あって、それが十七の軌道《きどう》に分れてまわっています。もちろんウラニウムの原子核はずっと重いです。水素の核の二百倍ぐらいあります」
「ポーデル博士。これより小さい世界はないのですか」
「ありませんね。これが極微《きょくび》の世界でございましょうね」
「もっと、いろいろの原子をのぞいてみたいわ」
「ああ、それはこの次にしましょう。じつは、これからたいへん遠いところへ旅行にでかけるのです。早くいかないと間にあわないかもしれません」


   太陽系横断


「たいへん遠いところというと、どこですか」
「先へおしえましょうか。これから、大宇宙のはてまでいってみましょう」
「えっ、大宇宙のはてですって。なるほど、これは遠いや。一番遠いところだ」
「どのくらい遠いのかしら」
「ここからはかった距離が二億五千万光年――というと、光の早さで走って二億五千万年かからないと、いきつかないところです。たいへん遠いですね」
「光はずいぶん早く走るんでしたわね」
「一秒間に、地球のまわりを七回半ぐらい走ります。数字でいうと、一秒間に三億メートルです」
「まあ、たいへん。そんな遠くまで、いけますの。あたしたち、途中で死んでしまいますわ」
「そうだ。人間は長生きをしても八十年か九十年だ。だから二億五千万年も走りたくても、生命がつづかないや」
「それは心配いりません。わたくしの樽ロケットは、光よりも早く走ります。一億光年を一分間で走ることもできます。よく見ておいでなさい」
 ポーデル博士は自信ありげにいった。
「では、ぼくたちの生命は大丈夫ですね。また帰ってくるまで、大丈夫ありますね」
「東助君、生命のこと、たいへん心配しますね」
「だって途中で生命がなくなっては、来月から『ふしぎ国探検』ができなくなりますからねえ」
「ほう、そうですか。では、あと十五分で、もとの原へもどしてあげます。だから心配いりません。さあ、それでは極微の世界にお別れして、逆《ぎゃく》の方向へとびますよ」
 博士がそういって、レバーを切りかえると、東助とヒトミのからだは、ほんのすこしの間だけだったが、大きな力でおしつぶされるような感じをうけた。二人はびっくりして、窓にかじりついた。
 その二人の目の前に、さっきとは逆に、水玉が見えたと思うと、次はそれが黄色い花びらになり、もっと縮まってたんぽぽの花になった。それはもっともっと縮んで、たんぽぽとれんげ草の花畑《はなばたけ》となり、もっともっと縮んで飛行機から見下ろした武蔵野の風景となり、それから南と北に分れて太平洋と日本海が藍色《あいいろ》に見えだした。
 あれよあれよといううちに、スピードはいよいよ増して、地球が大きな球になって見えだした。その地球も、どんどん小さく遠くなっていって、そのそばを月がぐるぐるまわっているのが見えだした。
「ははあ、愉快だ。さっき見た水素原子そっくりだな」
 東助はもういい気分にもどっていて、窓をたたいてよろこんだ。
「なぜ、水素原子の原子核と電子の関係と、地球と月の関係がそっくり似ているのかしら。東助さん、分って」
「ぼくには、分らないね。ふしぎだねえ」
「博士におたずねしようかしら」
「やあやあ、ヒトミちゃん。左の方から太陽がでてきたよ。明るい大きな太陽だ。ぼくたちは、今太陽のすぐそばをとんでいるんだぜ」
 なるほど、そのとおりだった。火星も小さく見えてまわっている。金星も見える。水星も見える。すごい宇宙の姿だ。――いや、これをすごいなどというのは正しくない。そのあとのすごさにくらべたら、なんでもないのだ。
「太陽から、だんだん遠くなっていきますよ」
 博士が操縦席からいった。
「あれは何かしら。大きな星だ」
「あれは木星です。反対の側をごらんなさい。大きな光る輪をもった星が見えるでしょう」
「ああ、見えますわ。あれは土星ね」
「そうです。気味のわるい星ですね。もうすこし先へいくと、かわった星が見えますよ。ああ、見えてきました。左の前方をごらんなさい。ぼーっと、光の尾をひいた星が見えますでしょう」
「ああ、見えます、見えます。彗星《すいせい》ではないのですか」
「そのとおりです。ハレー彗星です。かなり大きな彗星です。だんだん大きく見えてきますでしょう」
「ああ、すごいなあ。いつだか、あのハレー彗星は地球に衝突しそうになったのでしょう」
「千九百十年でした、あれは。今から三
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