いて、それから砲弾の方を合わせて置けば、砲弾は、どこまでも、目標を追いかける。先夜《せんや》、あなたがたを追いかけていったのも、その仕掛けのせいだ。尤《もっと》も、君たちに会えば、用がないから、わしのところへ戻ってくるように調整しておいたのだ。これはわしの自慢にしているからくりじゃ」
「なるほど。そんなことになりますかな」
と、感心しているとき、監視部《かんしぶ》から電話がかかってきた。敵艦隊が遂に現れたというのである。博士は、すぐさま弩竜号に、浮揚《ふよう》を命じた。
「二百発の低速砲弾を、敵の四|隻《せき》の巡洋戦艦《じゅんようせんかん》に集中する。一艦につき五十発ずつだ。五十発の命中弾をくらえば、どんな甲鈑《かんぱん》でも、蜂《はち》の巣になるじゃろう。しかも、第一発が命中した個所《かしょ》を、次の第二弾が又同じ個所を狙《ねら》って命中するのだから、まるで、錐《きり》でボール紙の函に穴をあけるようなものじゃ。まあ、見ていたまえ」
博士は、テレビジョンの映幕《スクリーン》を見ながら、八|門《もん》の四十センチ砲の射撃を命じたのであった。二百発の砲弾は、まるでいたずら小僧《こぞう》の群《むれ》を襲う熊蜂《くまばち》の群のように、敵艦にとびついていったが、まことにふしぎな、そして奇怪な光景であった。それから十五分ほどたって、四隻がてんでに舷側《げんそく》から火をふきながら、仲よく揃って、ぶくぶくと波間《なみま》に沈み去ったその壮観《そうかん》たるや、とても私の筆紙《ひっし》に尽《つく》し得るものではなかった。
ロッセ氏は、映幕《スクリーン》の前に、金博士の手を握り、子供のように慟哭《どうこく》した。余程《よほど》嬉《うれ》しかったものと見える。無理もない、それは確実に、印度民族|奮起《ふんき》の輝かしき序幕を闘いとったことになるのであったから。
しかしその日の新聞電報は、地中海から廻航中《かいこうちゅう》の英艦隊が、例によってドイツ潜水艦のため、多少の損傷《そんしょう》を蒙《こうむ》ったとだけ報ぜられ、四隻とも即時《そくじ》撃沈《げきちん》されたことにも、また金博士の弩竜号が活躍したことについても、全然|触《ふ》れていなかったのは、どうしたわけか、私には一向分らないところである。
底本:「海野十三全集 第10巻」三一書房
1991(平成3)年5月31日第1版第1刷発行
初出:「新青年」
1941(昭和16)年4月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:まや
2005年5月15日作成
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