暗号《あんごう》で書いてあるにしても、英艦隊撃滅作戦の書類を中に挟《はさ》んでおくなんて、不注意にも、程がある」
3
外へ出ると、ロッセ氏は、大昂奮《だいこうふん》の面持で、私を捕《とら》えて、放そうとはしなかった。
「ねえ、綿貫《わたぬき》君。われわれは、もっと語ろうではないか。素敵《すてき》なブランデーをのませる家を知っているから、これからそこへ案内しよう」
私は、初めから覚悟をしていたので、ロッセ氏のいうがままに、ついていった。
ホテル・クナンの、しずかな酒場《さかば》の片隅《かたすみ》に、ロッセ氏は、私を連れていった。
「この卓子《テーブル》は、僕の特約の席なんだ。では、お互いの健康を祝《しゅく》して……」
と、ロッセ氏は、琥珀色《こはくいろ》の液体の入ったグラスを高くさしあげて、唇へ持っていった。
「ふう、これでやっと落着いた。金博士も、ひどいところを素破《すっぱ》ぬいて、悦《よろこ》んでいるんだねえ。宿敵艦隊《しゅくてきかんたい》の一件が、あそこで曝露《ばくろ》するとは、思っていなかった」
「まあいいよ。私も、すこし独断《どくだん》だったけれど、あ
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